(論点)遺産分割手続きについて(遺言書の有無による手続きの違い)

2025年02月07日

遺産分割は、被相続人が遺した財産を相続人間で分配する過程であり、これを適切に行わなければトラブルや紛争の原因となる可能性があります。遺産分割手続きを進めるためには、まず「相続人の範囲」と「遺産の範囲」を特定することが前提となりますが、それが完了した後、次に進むべきは「遺産分割手続き」です。この手続きは、遺言書の有無やその有効性により異なってきます。

目次

1. 遺言書がある場合の遺産分割手続き

2. 遺言書がない場合の遺産分割手続き

3. 遺言書が無効となるケース

4. 遺産分割協議が成立しない場合

5. 遺産分割における留意点

6. まとめ


1. 遺言書がある場合の遺産分割手続き

 被相続人が遺言書を残している場合、基本的にはその遺言書の内容に従って遺産分割が行われます。遺言書は、被相続人の最終的な意思を反映したものであり、相続人全員がその内容に従う義務があります。遺言書がある場合、相続人間で遺産分割協議を行う必要はなく、遺言書に記載された内容に従って相続手続きを進めることが一般的です。

遺言書には主に以下の2つの形式があります:

自筆証書遺言:被相続人が自分で書き記した遺言書で、全文を自筆で書く必要があります。近年では法務局で保管する制度も導入されましたが、保管されていない場合には、相続人によって家庭裁判所に提出し、検認を受ける必要があります。

公正証書遺言:公証役場で公証人によって作成される遺言書です。公正証書遺言は検認が不要であり、法的な要件を満たしているため、最も信頼性が高い形式です。

 遺言書が有効であれば、相続手続きは比較的スムーズに進むことが多いです。しかし、遺言書の内容に問題がある場合や、相続人の中にその内容に異議を唱える者がいる場合は、トラブルが発生する可能性もあります。

2. 遺言書がない場合の遺産分割手続き

 一方、被相続人が遺言書を残していなかった場合、もしくは遺言書が無効であると判断された場合には、**相続人全員で「遺産分割協議」**を行う必要があります。遺産分割協議とは、相続人全員が合意のもとで遺産をどのように分割するかを話し合う手続きです。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要であり、全員が合意しなければ遺産の分割は進みません。

遺産分割協議では、以下のような要素を考慮して遺産の分割方法を決定します:

各相続人の法定相続分(民法で定められた割合)

相続財産の内容(不動産、現金、株式など)

遺産を平等に分けるための調整(不動産を現金化するなど)

 相続人間で意見が一致すれば、遺産分割協議書を作成し、全員が署名・押印します。この協議書が作成されることで、遺産分割が正式に完了し、それに基づいて各種名義変更や相続登記を行うことができます。

3. 遺言書が無効となるケース

 遺言書が存在する場合でも、その内容が法律上の要件を満たしていなければ無効となることがあります。例えば、自筆証書遺言であれば、全文が自筆で書かれていない場合や、署名や日付が欠けている場合には無効となります。また、遺言者が遺言を作成した際に判断能力を欠いていたと認められる場合や、第三者の強制や欺瞞によって遺言が作成された場合も、遺言書が無効となる可能性があります。

 無効となった場合は、遺言書がない場合と同様に、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。遺言書が無効であったことが相続人間で争点となる場合には、家庭裁判所で遺言書の有効性を巡る争いが発生することもあります。

4. 遺産分割協議が成立しない場合

 遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。しかし、相続人の中に協議に応じない者がいたり、分割の内容について意見が合わなかったりする場合は、協議が難航することがあります。こうした場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

 遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が相続人間の話し合いを仲介し、合意に向けた調整を行います。調停で合意に至れば、その内容に基づいて遺産分割が進められますが、調停が不成立となった場合には、最終的に家庭裁判所による審判に委ねられることになります。審判では、裁判官が法律に基づいて遺産分割の方法を決定します。

5. 遺産分割における留意点

 遺産分割において、相続人間での合意が重要ですが、**「遺留分」**に配慮することも大切です。遺留分とは、一定の相続人に最低限保証される相続分のことです。被相続人が遺言書で特定の相続人にすべての財産を相続させると記載していた場合でも、遺留分を侵害する内容であれば、他の相続人は遺留分の請求を行う権利があります。

 また、相続税の負担も考慮しなければなりません。特に、不動産などの現物財産を相続する場合は、その評価額に応じて相続税が課されるため、相続税の支払いに備えて現金や金融資産を適切に分割することが求められます。

6. まとめ

 遺産分割手続きは、相続における重要なステップであり、遺言書の有無や有効性によって進め方が異なります。遺言書が有効であれば、その内容に従って分割が行われますが、遺言書がない場合や無効な場合には、相続人全員による遺産分割協議が必要です。協議が難航する場合は、家庭裁判所での調停や審判に進むこともあります。相続人間で円滑に手続きを進めるためには、遺言書の適正な作成や、相続財産の把握、税負担への配慮が重要です。

最新のブログ記事

令和7年2月12日(水)に「北野純一税理士事務所」内で開催されます「相続法律・税務無料相談会」が実施されます。相続前のご相談、相続発生後のご相談、どちらにも対応しております。

遺産分割は、被相続人が遺した財産を相続人間で分配する過程であり、これを適切に行わなければトラブルや紛争の原因となる可能性があります。遺産分割手続きを進めるためには、まず「相続人の範囲」と「遺産の範囲」を特定することが前提となりますが、それが完了した後、次に進むべきは「遺産分割手続き」です。この手続きは、遺言書の有無やその有効性により異なってきます。

遺言書がある場合とない場合の相続に関する比較を項目に分けてまとめた内容となります。遺言書の有無が相続手続きに与える影響について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを整理していますので参考にしてみてください。

<