権利証を紛失してしまった場合の親子間贈与(相続対策)

2023年03月09日

(相談事案)

父名義の不動産を私に贈与することにしました。ですが、父が不動産を取得したのは30年以上前のことで権利証(登記済証)を紛失してしまいました。法務局では権利証を紛失しても再発行してくれないと聞きました。権利証がなくても贈与で私名義に変更することはできるのでしょうか?

(解決策)

権利証(登記済証や登記識別情報)を紛失または破棄してしまった場合でも、残念ながら法務局は権利証の再発行はしてくれません。

その場合、不動産登記法では(1)事前通知制度、(2)資格者代理人による本人確認情報の提供、(3)公証人の認証制度、といった制度のいずれかを利用することになるのですが、今回は親子間の贈与でしたの(1)事前通知制度を利用することで可能です。

それでは、各手続きの特長を見ていきましょう。

(1)事前通知制度

法務局から登記申請人に対し直接「登記申請についての意思確認の照会」を行う制度です。

権利証を添付せずに登記申請を行うと、数日後、法務局から売主である登記義務者に対して登記申請についての本人の意思を確認するための書面が郵送で通知されます。

法務局からの通知を受けた登記義務者は、一定期間内に「登記申請の内容について間違いのない旨の申出」を行う必要があります。(本当に贈与をしたかどうかの確認)

具体的には、法務局から送られてくる事前通知書に「この登記申請の内容は真実です」という回答欄がありますので、署名および実印で捺印をし法務局へ持参または郵送で送り返します。指定の期間までに書類が法務局に到着することで、権利証がなくても不動産の売却手続き(受贈者への名義書換)を行うことが可能になります。

ちなみに、申出期間は、法務局が通知を発送した日から二週間以内と定められており、この期間内に法務局に登記義務者から申出がなければ、登記申請自体が却下されるか、または登記申請を取下することになりますので、指定の期日までに法務局へ返信が届くよう注意が必要です。

※親子間での贈与や抵当権抹消といった登記申請に、適している。

(2)資格者代理人による本人確認情報の提供

登記の申請代理人である司法書士(資格者代理人)がご本人様と直接面談し、本人のパスポートや運転免許証等の身分証明書の提示を受けて本人であることを確認して、司法書士がその責任において本人確認をしたことを明らかにした上で、その内容を本人確認情報という書類を作成して、法務局に提供するというものです。

その本人確認情報が適正であれば、事前通知を省略して登記が実行されます。

ただし、あくまで「登記を代理して申請する司法書士等」が本人確認をしなければなりませんので,本人確認だけを知り合いの司法書士等に依頼し,登記だけは別の司法書士に依頼するということはできません。

この司法書士による本人確認をすれば,前住所通知等様々な手間が省けるため,権利証を紛失している場合に一番多く使われている方法です。

※前住所通知は、前の所有権移転から3か月以内に再度所有権移転が発生した場合に実施されます。今回のケースでは、もともと対象ではありません。

(3)公証人の認証制度

公証人の面前で、司法書士に対する登記申請委任状等にご署名・ご捺印いただき、公証人が間違いなく本人であることを確認し、その書類が真正なものであることの認証を受ける手続です。公証人による認証を受けた登記委任状を添付し、法務局に登記申請を行います。

こちらの手続きは、数千円程度の認証手数料を支払うだけで済みますので、本人確認情報を作成する費用を抑えることができます。

ただし、公証人による本人確認は,印鑑証明書、ご実印,運転免許証等の身分証及び認証文を付ける委任状を持って、公証役場が空いている時間(平日)に公証役場へ直接行っていただく必要がございます。

(結論)

親子間の贈与の場合、特に時間的な制約はないため、①事前通知制度の利用が最適であると考えます。

ちなみに、本人確認情報の提供の場合、司法書士への報酬は「5万円から10万円ほど」、公証人の場合、おおむね1万円以下が必要になります。

司法書士の場合、司法書士が出向いて本人確認をいたしますが、公証人の場合、ご本人と司法書士が直接、公証役場に出向く必要性があります。

※現在、本人確認についても厳格化されつつあります。司法書士報酬についても従前の5万円から10万円ではなくなってしまう可能性もありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。

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