(論点)M&A仲介会社が詐欺事件に関わってしまう問題点

2024年05月30日

先日、令和6年5月3日の東京新聞に「ルシアンホールディングズの詐欺事件」にM&A仲介会社が深く関与していたとして、詳しく取り上げられていました。ルシアン側が買主となり、業績の悪い中小企業の買収をにおわせ、「企業再生するのが得意」と言いながら、企業のキャッシュを根こそぎ持っていきました。なぜ、このような事件が起こってしまったのか、現状のM&A仲介の背景や問題点について解説したいと思います。

目次

1.ルシアンホールディングズの詐欺事件の概要

2.M&A仲介会社はなぜ関与してしまったのか?

3.まとめ


1.ルシアンホールディングズの詐欺事件の概要

(令和6年5月3日 東京新聞記事引用)

「中小企業の事業再生策として、国も推奨するM&A(企業の合併・買収)で、悪質な投資会社による被害が相次いでいる。複数の被害企業によると、この投資会社は買収後、役員報酬などの名目で資金を吸い取る一方、被害企業の負債を残したまま連絡を絶つ手口を繰り返していたという。破綻に追い込まれた企業も多く、一部が警察に被害を相談している。(佐藤航)

◆自信ありげに「再生させるのが得意」

 問題になっているのは東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」。自らの商社も被害に遭い、「被害者の会」を取りまとめる富山市の荒川公一さん(61)によると、2021~23年にかけ、全国の37社が被害に遭った。業種は飲食会社や建設、電気工事など幅広い。複数のM&A仲介業者を通じ買収を持ちかけていた。

 都内で洋菓子店を経営していた企業もその一つ。経営していた60代男性は、経営不振から売却を考えていたところ、仲介業者からルシアンを紹介された。面談で、ルシアン役員は「うちは資金状態の悪い会社を再生させるのが得意」と自信ありげに語ったという。

◆「家も差し押さえられ人生が狂った」

 昨年4月に自社の株式を売却。代表取締役にはルシアン役員が就いた。しかし、会社の連帯保証人を新経営陣に切り替えるはずが、ルシアン側は多忙を理由に変更しなかった。一方、ルシアン役員は社長として月100万円の役員報酬を取り、従業員から借りた1000万円を踏み倒した上、2カ月分の従業員給与を未払いのまま消息を絶った。

 横浜市の電気工事会社も昨年1月、ルシアン関係会社に株式を譲渡した。ルシアン側は連帯保証人を引き継がず、会社の資金1000万円を抜き取った後、連絡を絶った。債務約6億円を残された前経営者の30代男性は「家も預金口座も差し押さえられ、人生を狂わされた。悪質な企業を仲介した業者の責任も大きい」と訴える。

◆国が推進する施策なのに監視体制なし

 中小企業の多くが経営者の高齢化や後継者不足に悩む中、中小企業庁は選択肢の一つとしてM&Aを推奨。買い手側に税制の緩和措置を設け、中小企業が支えてきた雇用や技術を受け継ぐよう支援してきた。

 その一方、悪質な企業の参入を監視する体制はなく、仲介業者向けの留意点をまとめたガイドラインがあるのみだ。中小企業庁財務課の担当者は「(ルシアンの件が)事実だとすれば何らかの対策を検討しなければならない」と説明するが、ある仲介業者は「最初から契約を守る気のない企業が入り込むのを防ぐのは難しい」と打ち明ける。

 現在、ルシアン役員との連絡はつかない状態。被害者の会は「資金を抜き取るのが狙いだった」として、警視庁捜査2課に被害を相談しているという。」(記事引用終わり)

2.M&A仲介会社はなぜ関与してしまったのか?

 これは、現在のM&A仲介の業界構造に問題があると考えます。

①金銭的インセンティブ

 M&A仲介業者は、成功報酬として手数料を受け取ることが多いため、高額な手数料を得るために無理をしてしまう可能性がある。手数料は、売主・買主から徴収でき、手数料さえ払ってもらえれば、お客様ということになります。実際、ルシアン側からは、手数料は毎回もらってたみたいですね。

➁情報の非対称性

 M&Aの取引では、買収側と売却側の間で情報の非対称性が存在します。仲介業者は両者の間に立って情報を管理・提供する役割を担いますが、この情報の非対称性を知りながら、M&A仲介会社にとっては上顧客であるルシアンを紹介していたようです。

③業界の規制の甘さ

 新聞記事の中でも触れられていましたが、「国が推進する施策なのに監視体制なし」と書かれていました。今回の事件も、その規制の甘さを突いて行われています。

 関与したM&A仲介会社は、小さい企業ではなく、上場企業もしくは上場企業の資本が入った企業が主となっています。そして、彼らの言い分としては、(要約)「仲介はしたが、契約時にリスクは説明している。そして、契約したのは今回騙された企業であり、我々は関係ない。」といったものが多かったです。つまり自己責任論を展開していました。一部、今後の対応策についての言及がありましたが、私見にはなりますが、どの会社も補償するつもりはないみたいですね。

3.まとめ

 さて、ルシアンホールディングスの詐欺事件について話をしてきましたが、だまされた中小企業の社長や従業員はどうなったのかと言いますと、ルシアン側から、資金管理との名目で通帳類を取り上げられ、そして、役員の個人保証についても外すと言いながら、いろいろな理由をつけて外していませんでした。

 結局、従業員と会社を守るためのM&Aが、従業員と会社を守れず、多額の借金を社長が負うといった状況になっているみたいです。本当にひどい話です。

 今回の詐欺事件は、明らかに現金をだまし取ることが目的ですので、詐欺事件として捜査されています。しかし、通常のM&Aも、「ほしい者さえ取れれば、あとは用済み」のケースもあります。例えば、買収する企業が欲しいものが、その企業が保有している特許のみであり、地域の地場産業としての地位やその従業員たちの生活を維持しながら、地方で企業を継続するのかと言いますと、そのようにはならないケースもあります。

 売主側の企業は、慎重な判断が求められますが、切羽詰まるとそうもいきません。

 切羽詰まる前に、最寄りの「商工会議所」内にある「事業承継・引継センター」に相談してみるのも一つの手かと思います。

最新のブログ記事

先日、令和6年5月3日の東京新聞に「ルシアンホールディングズの詐欺事件」にM&A仲介会社が深く関与していたとして、詳しく取り上げられていました。ルシアン側が買主となり、業績の悪い中小企業の買収をにおわせ、「企業再生するのが得意」と言いながら、企業のキャッシュを根こそぎ持っていきました。なぜ、このような事件が起こってしまったのか、現状のM&A仲介の背景や問題点について解説したいと思います。

先日の問い合わせで、設立した会社の株主(当初から存在する株主)が、当該株式を手放したいという問い合わせがありました。売り先は、関連会社が買い取るということになるとのことでした。単純な売買だけで考えればいいのでしょうか?それでは、解説します。

東京商工リサーチの記事で、「商業登記規則の省令改正問題」が報じられていました。今回の改正により、登記簿に代表取締役の住所が記載されなくなる点です。この改正は、DVやストーカー被害からの保護を目的のみとしとしていましたが、今回の改正で代表取締役の住所表示を一定の要件でしなくすることができます。いったい何が問題なのでしょうか。解説していきます。

会社・法人が解散をした後、清算人が行う仕事は3つ、「現務の結了」「債権の回収」「債務の弁済」です。この中で「債務の弁済」、つまり当該会社・法人の債権者に向けて解散を知らせる手段として、「官報公告」があります。今回は、「官報公告」について、お話をしたいと思います。

<