(論点)利益供与とは(いったい何が悪いのか)

2024年10月02日

利益供与は、他者に対して金銭や物品、サービス、地位、特権などを提供し、その見返りに何らかの利益や便宜を得ようとする行為を指します。利益供与は多くの場合、ビジネスや個人の人間関係において日常的に行われていますが、それが法令に触れる場合、違法行為となり得ます。本稿では、一般的な利益供与と、法令上禁止されている利益供与の違いについて詳述します。

目次

1.一般的な利益供与

2.法令上禁止されている利益供与

3.利益供与の線引き

4.利益供与が会社法上制限される場合

結論


1. 一般的な利益供与

 一般的な利益供与とは、企業や個人が商取引やビジネスにおいて取引相手や顧客に対して提供する利益やサービスです。これは通常、法に触れることなく、契約や商習慣の範囲内で行われます。

 例えば、企業が顧客に対して優遇措置を提供することや、取引相手に対して商談後に接待を行うこと、従業員に対してボーナスや福利厚生を提供することなどは、利益供与の一例です。これらの行為は、ビジネス関係の維持や向上、従業員の士気向上を目的としています。また、これらの利益供与は透明性があり、社会的に容認されている範囲内で行われているため、一般的には違法とはみなされません。

 ただし、利益供与が過度に偏ったり、不当な優遇を受ける場合には、他の競合企業や関係者から不満が生じる可能性があります。そのため、企業は利益供与の方法や範囲について慎重に検討する必要があります。

2. 法令上禁止されている利益供与

 一方で、法令上禁止されている利益供与は、公正な取引や社会秩序を乱す行為とされ、刑事罰や行政処分の対象となります。具体的には、贈収賄や不正競争防止法に違反する行為、コンプライアンス上問題のある行為が該当します。

(1)贈収賄

 贈収賄は、特に公務員や政治家に対する利益供与が問題視されます。贈賄とは、金銭や物品を提供して公務員に違法な便宜を図らせる行為であり、収賄とは、逆に公務員がそのような便宜を提供する代わりに金銭などを受け取る行為です。日本の刑法第197条では、公務員がその職務に関連して賄賂を受け取ることを禁じており、違反した場合には重い刑罰が科されます。

 たとえば、企業が公共工事の受注を目的として、公務員に金銭やギフトを提供し、その見返りに便宜を図ってもらう行為は、明確な贈収賄となります。贈収賄は、公共の信頼を損ない、社会の公平性を揺るがすため、厳しく取り締まられています。

(2)不正競争防止法

 不正競争防止法では、企業間での不正な取引や利益供与が規制されています。具体的には、営業秘密の不正取得や不正な利益供与による取引誘引行為などが該当します。たとえば、競合他社の顧客リストを違法に取得し、それを基に利益供与を行って取引先を奪う行為などは、不正競争防止法に違反します。

 また、贈収賄とは異なり、民間同士の取引でも、不適切な利益供与は問題となります。特定の企業や取引先に対して過度な優遇措置を取ることや、リベートを受け取る代わりに特別な取引条件を設ける行為も、場合によっては不正競争とみなされることがあります。

(3)コンプライアンス上の問題

 企業の社会的責任(CSR)やコンプライアンスの観点からも、利益供与には厳しい目が向けられています。特に国際的な企業では、国境を越えた贈収賄防止法規(たとえば、米国の外国腐敗行為防止法〈FCPA〉や英国の贈収賄法〈UK Bribery Act〉)が適用されるため、利益供与の基準が非常に厳格です。これらの法令は、外国の公務員への賄賂供与を厳しく取り締まっており、違反した場合には巨額の罰金が科される可能性があります。

 企業が国際的に事業を展開する際には、各国の法令に適合した形で利益供与の範囲を設定する必要があります。特に、第三者を介した間接的な利益供与や、業界の慣習として行われている接待やギフトの提供も、法令違反となるリスクがあるため、細心の注意が求められます。

3. 利益供与の線引き

 利益供与が一般的な商習慣の範囲内であるか、違法行為に該当するかの判断はしばしば難しいです。例えば、接待やギフトの提供は商習慣として広く受け入れられているものの、その規模や頻度、提供の目的によっては違法とみなされることがあります。

利益供与の線引きを行う際には、次の要素が考慮されます。

㋐提供の目的:利益供与が純粋に友好関係の構築や感謝の意を示すためのものであれば問題ありませんが、特定の取引や便宜を引き出す目的がある場合は問題となります。

㋑透明性:利益供与が透明であり、関連する関係者全員に開示されている場合には、問題となる可能性は低くなります。しかし、隠蔽されたり不正な手段で行われた場合、違法性が高まります。

㋒受領者の立場:受領者が公務員や取引先の重要な意思決定者である場合、その利益供与は厳しく規制されます。公務員や政府関係者に対する利益供与は特に注意が必要です。

それでは、公務員などでなければ際限なく利益供与はできるのでしょうか?会社法で規制されているので見ていきましょう。

4.利益供与が会社法上制限される場合

 株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子株式会社の計算で、財産上の利益の供与をしてはなりません(会社法120条1項)。 この規制は、企業経営の健全性を確保するとともに、株式会社財産の浪費を防止する趣旨で設けられたものです。つまり、総会屋などに利益供与をして総会の運営を役員に都合よく運用していくことなどが挙げられます。

 ①財産上の利益の供与

  財産上の利益とは、金品の供与だけでなく、金員貸与、債務免除などを含みます。また、無償の場合だけでなく、有償の場合も含まれます。

 ➁供与の相手方

  株主(総会屋)に限定されません。株主である総会屋自身ではなく、その妻子などに対して利益を供与する場合も該当します。

 ③株式会社又は子会社の計算における利益供与

  株式会社又は子会社の計算において財産上の利益を供与することが禁止されます。取締役などが自分の計算で利益を供与する場合には、会社法120条の適用はありませんが、それをすることにより取締役の報酬を増加させようとした場合には、会社法120条の適用となります。

結論

 利益供与は、商習慣の中で頻繁に行われる行為ですが、法令上の規制があるため、その範囲や内容について慎重な対応が求められます。一般的な利益供与はビジネスや人間関係の円滑化に役立ちますが、法令上禁止されている利益供与は社会秩序を乱し、公正な取引を妨げるため、厳しく取り締まられます。特に贈収賄や不正競争防止法に関連する利益供与は、社会的に大きな影響を及ぼすため、企業や個人は適切なコンプライアンス体制を整え、法令を遵守する必要があります。

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