数次相続発生時に、相続人の一人に全部相続させる旨の遺言(包括遺贈)がある場合(遺産分割協議書事例)
遺産分割協議書事例
(事例1)
土地の所有権登記名義人甲が死亡し、その相続人が乙と丙であったが、遺産分割協議未了の間に、丙が死亡した。
丙の相続人はA,Bの2人であるが、丙は、「全ての相続財産をAに相続させる」旨の公正証書遺言を作成していた。
(論点)
甲名義の土地の相続登記を申請する場合、
1.遺産分割協議の当事者は誰か?
2.遺産分割協議書等、特別な記載又は添付書類が必要か?
3.添付すべき戸籍の範囲は?
登記研究831号(平成29年5月号)のカウンター相談249に従う(H31.2.4登記相談@鳥取地方法務局米子支局)の内容から、以下のように対応することとなります。
1.遺産分割協議の当事者は誰か?
遺産分割協議の当事者は、乙とAの2名となり、Bは参加不要。ただし、Bから遺留分減殺請求がなされていない場合に限られます。
2.遺産分割協議書等、特別な記載又は添付書類が必要か?
遺産分割協議書に「Bから遺留分減殺請求権の行使がない」旨の記載をするか、同内容の上申書を添付するかのどちらかが必要となります。
3.添付すべき戸籍の範囲は?
(1)甲の出生~死亡
(2)乙の現在戸籍謄本
(3)丙の出生~死亡(丙の遺言効力発生確認、遺留分権利者の存在確認)の戸籍・除籍謄本
(4)Aの現在戸籍謄本(包括遺贈の効力発生確認)
これが登記研究の要旨となります。
(事例2)
土地の所有権登記名義人甲が死亡し、その相続人が乙と丙であったが、遺産分割協議未了の間に、丙が死亡した。
丙の相続人は配偶者A,認知された子Bの2人であるが、丙は、「全ての相続財産を配偶者Aに相続させる」旨の公正証書遺言を作成していた。
認知の子Bを遺産分割協議に参加させなければならないのかが論点となる事例です。
遺言書がない場合、Bも遺産分割協議に参加させなければ、Aと乙で作成した遺産分割協議書は無効となります。しかし、事例2では、丙の遺言書(配偶者Aに相続させる)が、ありますので、Aと乙で作成した遺産分割協議書は登記研究からすると有効となります。
心情的に、配偶者Aにとって見たこともないBを参加させての遺産分割協議は、正直気が進まないと思ってしまうのもわかる気がします。このような状態にならないためにも、遺言書の重要性が理解できると思います。
(別論点:相続人でないものが相続人として遺産分割協議に加わって、合意が成立した場合の遺産分割協議の効力)
相続人でないものが参加した遺産分割協議書についての判断が出ていますので、ご紹介いたします。
原則:相続人でないものが取得するとされた部分のみが無効となり、その他の部分は有効。
例外:相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合は遺産分割協議全体が無効になる。
(大阪地方裁判所平成18年5月15日判決)この裁判は、後に養子縁組無効と判断された者が、遺産分割協議に参加していた事例になります。
(遺産分割協議の解除について)
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議を解除することができます。(最高裁平成1年2月19日判決)
解除された場合には、遡及的に協議が無効となります。白紙の状態に戻るのです。
但し、遺産分割協議を信じて相続人の1人と取引した相手方は、保護されます。
たとえば、遺産分割に基づいて相続人名義に不動産の登記がされ、その登記を信じた者(第三者)がその不動産を購入した場合、その買主は保護されます。
「(遺産の分割の効力)
民法第909条 遺産の分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずる。
ただし、第三者の権利を害することはできない。」
遺産分割協議の解除には、相続人全員の同意が必ず必要となります。たとえ、遺産分割協議の内容を守らなかった人がいても、相続人の1人が解除することはできません。(最高裁平成元年2月9日判決)
紛争性が高い場合には、弁護士対応となります。
詳しくは司法書士まで。弁護士が必要な場合には、お繋ぎいたします。